日本のクワガタバブル ?>

日本のクワガタバブル

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2016年現在、オオクワガタの大きい個体の価格は数千円程度です。しかし、この価格が非常に高騰した時期が1999年付近で、1個体に100万円以上の価格がつくこともありました。もっとも極端な例は、雄の1個体に1000万円がついたケースでしょう(参照1、実際に買い手がついたかどうかは定かではありません)。この投稿では、どのような要素が関わってオオクワガタの価格の急上昇が起こり、またその後に下降していったのか、個人的な経験と、手に入る情報源から推測します(1980、1997、2016年のカブト・クワガタの値段についてはこちらに書きました)。

なぜオオクワガタの価格は急上昇したか?
クワガタ愛好家、つまり大人のクワガタファンが増えたこと、そしてそれに伴って飼育技術が向上したことが、オオクワガタの価格の急上昇が始まる必要条件を作ったのではないかと考えられます。初期にクワガタ愛好家が増え始めたことは、伝統的な昆虫の月刊誌である『月刊むし』が1987年に、クワガタ特集号を刊行し始めたことから見てとれます。年に1回発行されるクワガタ特集号では、採集報告・飼育報告がともに掲載されます。クワガタを扱う雑誌の登場によって、子供時代にクワガタが好きだった大人がまたクワガタへの情熱を再燃させることも大いにあったと思います。その後、徐々にクワガタやその飼育用具を販売する専門店が現れるようになり、生まれつつある流行の成長を支えました。

飼育技術の発達、つまり幼虫を育てていかに大きな成虫を得るかについてのノウハウは1990年代に急速に発達しました。特にオオクワガタをどのように大きく育てるかについては、早くからこれに取り組んだ数人によって、月刊むしでの報告が続けられました。1996年には、そのうちの1人である小島氏による著作が発行され(参照2)、今なおクワガタ飼育の教科書として読まれています。クワガタ愛好家はこのような情報源を参考にしたり、またそこからオリジナルの工夫を加えたりして、大きな成虫を得ることを目指します。

また、情報共有という観点ではインターネットの普及も見逃せません。私個人も、1997年前後にインターネットから飼育技術の多くを学び、実際に試していました。飼育技術の発達により、オオクワガタの最大サイズ(いわゆる「ギネスサイズ」)は継続的に更新されていきました。飼育環境下で生まれたオオクワガタの各年の最大サイズをまとめた記録は見つからなかったものの、毎年の『月刊むし』の記事を見ればこの傾向が見てとれます。

オオクワガタの価格がいつごろから上昇し始めたのかははっきりしませんが、価格のピークは1999年に訪れました。愛好家にとって大型のオオクワガタを手に入れることは、単にコレクション的な意味で満足感を得るだけでなく、その成虫を親としてより大きな子を得ることにもつながります。人間と同じように、大きな親からは大きな子が生まれる傾向にあるからです。1999年には、オオクワガタの最大サイズは80.0 mmを目前に迫るところまで来ていました。人間にとって分かりやすい80mmという大台が迫っていたことと、価格が高騰したことはおそらく偶然ではないでしょう。オオクワガタの価格の高騰はTVや新聞でも取り上げられ、一般の人にさえも知られるようになりました。そしてこの次の年、価格は下落します。

1999年以降、なぜ価格が下がったのか?
なぜ1999年以降に価格が下がったのかについては、以下の3つの理由が考えられます。①80mmという大台が突破されたことで、愛好家のなかでの目標が「より大きい成虫を」から「より美しい成虫を」(「美形オオクワガタ」という言葉が見られるようになってきます)に変わり、サイズを追求する情熱がやや冷めた、②「菌糸ビン」の普及によって大型のオオクワガタを育てることが比較的簡単になり、愛好家が自分で育てたオオクワガタのサイズにある程度の満足感を持てるようになった、③1999年に外国産クワガタの輸入が解禁され(参照3)、愛好家の興味が分散した。①~③の詳細については、このブログ中で独立した投稿として後で書きたいと思っています。

オオクワガタの価格の高騰から何を学ぶか?
熱狂とも言える1999年の価格の高騰は、私たちとオオクワガタにどのような影響を与えたでしょうか。結果として飼育技術の向上が生まれたことを、私は前向きにとらえてよいと思っています。現在、適切な飼育環境さえあれば子どもたちでもオオクワガタを飼うことができます。野生のオオクワガタの減少は依然として大きな問題ですが、種としてのオオクワガタが絶滅することは考えにくいでしょう。他方、悪い側面としては、残念ながらブームから生まれた環境破壊が挙げられます。一部の愛好家が、幼虫の住み家である朽ち木を破壊したり、生きた樹を傷つけたりとマナーの悪い間違った方法で野生のオオクワガタを採集しようとして問題になったことがあります。これらの良い面と悪い面を過去から学び、良い面は他の事例に応用(たとえばオオクワガタの飼育技術から、他の希少なクワガタの保護の方法のヒントが見つかるかもしれません)し、悪い面は繰り返さない(採集マナーの普及は大切です)ようにできればよいと思います。

参照
1. (英語記事)”Stag beetle hunter casts doubt on reported 10 million yen deal”, The Japanese times, SEP 16, 1999
2. “クワガタムシ飼育のスーパーテクニック”、むし社 (1996)
3. 生きた昆虫・微生物などの輸入について(植物防疫所)

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