大人の自由研究:半球型樹脂でクワガタ標本がゆがんで見える理由(上級編)
初級編では、半球型樹脂中での「中心付近は比較的ゆがみが弱く、次に縦横に大きく膨張し、さらに外側に近づくと縁のほうに向かってつぶれる傾向」を見ました。
【図1:半球型樹脂中のコクワガタ】
このおかしなゆがみ方について、以下のツールを使って何が起こっているのか理解しようとしてみました。
- 光の屈折を説明する「スネルの法則」
- フリー描画ソフトKSEG
- Excel
まず光の屈折の基本を確認しましょう。空気中の光が他の物質(水や樹脂など)に入射すると光の屈折が起こります。
【図2:光の屈折の基本-1】
屈折した光が眼に入ると、錯覚によって〇にあるはずのものが☆にあるように見えます(ちなみに屈折する光の軌跡は、空気中から他の物質中に光が入射するときも、逆に他の物質中から空気中に光が入射するときも同じです)。半球型樹脂でも同じことが起こっていると考えられます。
【図3:光の屈折の基本-2】
入射角θ1と屈折角θ2の関係は「スネルの法則」
sinθ1/sinθ2=n
という物理法則に従います。
nは物質ごとに決まっている値で、屈折率といいます。半球型樹脂に使ったエポキシ樹脂の屈折率は1.55-1.61で、今回は1.60とします。
半球型樹脂で光の屈折がどのように起こるのかを作図するため、KSEGというフリーの描画ソフトを使いました。KSEGは直線や円の描画から、距離や角度の測定まで簡単に操作ができる便利なソフトです。
KSEGを使って、光の通り道を1つ作図したのが以下の図です。
【図4:光の屈折の作図例】
Aにあった点がCで屈折して目に届きますが、実際には錯覚によってBに見えます。
ここで半球の中心の位置を0、外の縁の位置を100とします。複数の点について図4の作図を行い、点AとBの位置の関係をプロットしたのが以下の図です。
【図5:中心からAまでの距離とBまでの距離】
また、中心からAまでの距離とBまでの距離の差(つまりどれだけ膨張するか)をプロットしたのが以下です。
【図6:中心からAまでの距離とBまでの距離の差】
60ぐらいの位置で最も膨張が激しいことがわかります。
図5の近似曲線を使って、Aの位置に対するBの位置を数直線上に表したのが以下です。
【図7:Aの位置に対するBの位置】
図7に従って、クワガタの画像をマニュアルで加工(分割した画像を図7のゆがみにしたがって引き伸ばしたのち結合) してみました。
【図8:クワガタの画像をマニュアルで加工 】
同様に腹部についても加工し、また体軸に垂直な方向にも加工し、くっつけたところ図9のようになりました。図9は上から加工前、加工後、実際の半球樹脂中の標本です。
【図9:加工前/加工後/実際の半球樹脂中の標本】
「中心付近は比較的ゆがみが弱く、次に縦横に大きく膨張し、さらに外側に近づくと縁のほうに向かってつぶれる傾向」が再現できました。図5から図7でのモデルは、ある程度正しそうです。
図7を使うことで、ある標本を半球型樹脂に埋めたときにどう見えるか、実際に作る前に知ることができます。
結論は第一部と変わりませんが、ゆがみの全体像をとらえることができたと考えています。