樹液の成分から、人工樹液・バナナトラップとの関連を考える
樹液の大切さはよく知られているにも関わらず、「樹液に何が含まれているか」はほとんど知られていないのではないでしょうか。樹液には糖分だけではなくタンパク質が含まれており、栄養分として重要であるということは明らかになっていました(こちらの投稿をご覧ください)。しかし、樹液の成分を1つ1つ明らかにした文献を私は見つけられずにいました。
樹液の成分が紹介されていた本
最近、探していた本が見つかりました。『樹液をめぐる昆虫たち』(偕成社)のなかで、樹液の成分が紹介されています。本書は子ども向けの本ですが、著者や研究者による研究結果が載せられています。樹液の成分については、著者は樹液を集めて研究者に送り、分析を依頼しています。
『樹液をめぐる昆虫たち』(アマゾンのサイトへジャンプします)
樹液には糖分、タンパク質、そして発酵産物が含まれていました。発酵産物とは、エタノール、グリセリン、酢酸などです(樹液に含まれる成分全体については本書を参照してください。成分だけでなく、パーセンテージも載っています)。
人工的な樹液とバナナトラップ
樹液の成分を見て、昔から使われてきた人工樹液やトラップのことが思い出されました。実際の樹液の成分は(私の見落としでなければ)本書が出版される前には知られていなかったと思いますが、人工樹液やトラップにはその成分の一部をみごとに当てていたところがあります。
①人工樹液(1980年代に出版された複数の本で紹介されていました)
作りかた・使いかた:黒砂糖、水、日本酒、酢を混ぜ、煮詰める。冷めた後、エサとして使う。
天然の樹液をできるだけ再現しようとしたのでしょう。エタノールや酢酸が樹液に含まれることは臭いから判別できると思われます。そこで、日本酒と酢を混ぜたのでしょう。
②バナナトラップ(いつ頃から使われたのかは分かりませんが、1990年代にはすでに使われていました)
作りかた・使いかた:カットしたバナナ、焼酎、ドライイースト、砂糖を混ぜる。数時間放置した後で、木に塗る(またはネットなどに入れてくくり付ける)。
いわゆるバナナトラップと呼ばれる方法で、カブトムシやクワガタを採集するときに使われる方法です。この「数時間放置」で発酵が起こります。
この方法が優れている理由は私は2つあると思います。1つは樹液成分に近い発酵産物ができることで誘引効果が高まること(単にバナナや砂糖水だけでは誘引効果はとても弱いでしょう)、もう1つは発酵が持続するため効果が数日キープできることです。
人工的な樹液とバナナトラップの次は?
『樹液をめぐる昆虫たち』の成分リストを見れば、完全な樹液に近いものを作ることはできるでしょう。しかし、1回作って楽しむだけならともかく、継続的に作るのは現実的ではないと私は思ってしまいます。今日売られている高タンパク質ゼリーを使えばメジャーな種類のブリーディングには充分ですし、また採集のためのバナナトラップもすでに十分な効果を持っているのではないでしょうか。何より、完全な樹液を自作するのは時間とお金がかかってしまうでしょう。
それよりも、樹液成分のリストから出発して新しいコンセプトのエサが開発されるのを私は期待しています。以下に私の希望を書いてみます。
- ショウジョウバエが発生しない昆虫ゼリー
- カブトムシ、クワガタが長生きするゼリー
- マイナーな種類のカブトムシ、クワガタに特化したゼリー