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日本ではいつごろからカブトムシが飼われ始めたのか

実はユニークな日本のクワガタ・カブトムシ飼育文化」で見たように、日本ではカブトムシやクワガタを飼うのは珍しいことではありません。カブトムシやクワガタが人気なのを私たちは当たり前のように感じていますが、この人気はいつごろから始まったのでしょうか。カブトムシやクワガタが絵画に見られる江戸・明治時代でしょうか?

A rhinoceros beetle

奈良時代から続いた、鳴く虫を楽しむ文化
カブトムシ、クワガタが人気になるはるか前に、コオロギやスズムシなどの鳴く虫を楽しむ文化が生まれたこと文献から分かります。虫の声を楽しむ記述は奈良時代の万葉集にまでさかのぼり、当時既にコオロギ(鳴く虫の総称として呼んでいたようです)の声を楽しんでいたことが分かります。平安時代の代表的な文学作品にも、鳴く虫が貴族に好まれていた様が描かれています(源氏物語、枕草子)。

一般庶民に鳴く虫が楽しまれるようになったのは江戸時代のようです。このころにはスズムシなどを売る「虫売り」が登場しました。スズムシを養殖して売る技術が後に確立し、これを初めて立ち上げた売り手は莫大な利益を上げたそうです。「虫売り」は戦前まで続き、夏の縁日などでよく見られたようです(参照1)。ここまで、カブトムシやクワガタはまったく登場しません。虫は鳴き声を楽しむもの、というのが当時の感覚だったのでしょう。

1960年代からカブトムシが人気に
カブトムシが人気になってきたのは1960年代のようです。まず、1960年に教材としての昆虫の飼い方の本の中にカブトムシの飼い方が出てきます(参照2)。1966年からはペットの飼い方の1つとしてカブトムシの飼い方が紹介されます(参照3) 。人気に火が付いたのか、1968年までにはデパートでカブトムシが売られていたようです(参照4)。採集して売るだけでは間に合わないほど人気だったようで、1971年にはすでにカブトムシの養殖が始まっていることが分かります(参照5)。1974年には、カブトムシ(とクワガタ、カミキリムシ)が圧倒的な人気を持っていたことが記載されています(参照6)。

「むかしは、チョウチョウ、トンボ、セミなどが主役でしたが、最近は、テレビの怪獣ブームの影響などで、カミキリ、カブト、クワガタなどの虫が圧倒的人気を占めているようです。形体的にいって何んとなく類似性があるのでしょう。」(参照6)

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なぜカブトムシは日本で人気になったのか?
カブトムシの人気は、1960年から1970年にかけて起きたペットブームの一部としてとらえることができます。これは『ペットの飼い方 : 120種のように幅広い種類のペットの飼い方を指南する本がこの時期に増えていたことから推測できます。ペットブームの主役は犬や猫などの愛玩動物でしたが(犬猫を対象としたペットブームの歴史については参照7)、同様に小動物や昆虫も飼育の対象として見られ始めていました。

ペットブームの背景には1.高度経済成長期で人々に経済的な余裕ができ始めたこと、2.都市化の進行によって自然に触れたいという気持ちが人々の間で高まったことがあったのでしょう。さらに、身近な昆虫のなかでカブトムシが人気になっていったことには、さきに挙げられていたようにテレビに登場する怪獣との共通点(大きくて強いものが格好良い)があったこと、またカブトムシの飼育・養殖が簡単だったことが理由として考えられます。

都市化とペットブームの関連は、他の国でも同じことが起こりそうです。しかし、多くの人々の興味がカブトムシへも向いたことは特殊で、「虫売り」に象徴される鳴く虫を愛でる文化的背景が影響していたと考えたくなります。

クワガタの人気は後にさらに高まるのですが、こちらは別の機会に扱いたいと思います。

参照:
1. ラフカディオ・ハーン、『異国情趣と回顧』(1898)
2.  松沢寛、『教材昆虫飼育法』(1960)
3. 主婦と生活社、 『ペットの飼い方:海水魚からチンパンジーまで』(1966)
4.  牧野 信司、『ペットの話、上手な飼い方 』(1968)
5.  中川志郎、『ペットの捕り方飼い方馴らし方 』(1971)
6.  牧野信司、『ペットの飼い方』(1971)
7. 岩倉由貴、『生体販売の歴史的変遷』(2011)

 

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