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菌糸ビン:クワガタムシ飼育技術のブレークスルー

クワガタムシを飼育する人の興味は、「大きな成虫のクワガタムシをいかに誕生させるか」にあります。この「大きな成虫のクワガタムシをいかに誕生させるか」は、「いかに幼虫のクワガタムシを大きく育てるか」にかかっています。というのも、成虫のクワガタムシの大きさは幼虫の時代の栄養状態によって決まり、いったん成虫になったら大きさはもう変わらないからです。これは、昆虫の体が外骨格と呼ばれる硬いつくりになっていることからも想像できると思います。

幼虫を大きく育てるために、いろいろな工夫がされてきました。 「幼虫の育て方」の記事で紹介したように、木を細かく砕いたマットや木そのものを餌として幼虫を飼育する方法が、クワガタの飼育が普及し始めたころには主要な方法でした。しかし1990年代後半に「菌糸ビン」がクワガタムシを飼育する最も効果的な方法として有名になります。菌糸ビンは、すべての種類のクワガタムシの飼育に有効というわけではありません。しかし日本でもっとも人気のあるクワガタムシであるオオクワガタの飼育にきわめて有効だったために、急速に普及していきました。

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写真: クワガタムシ専門店で売られている菌糸ビン

◆ 菌糸ビンとは?

菌糸ビンは、粉砕したクヌギなどの広葉樹にキノコ菌を植えたものです。菌糸ビンはもともとキノコ栽培のための技術だったのですが、これが1990年代にクワガタムシの飼育に応用されたのです。一般的に菌糸ビンは以下のように作られます。
1. 粉砕した広葉樹に水と添加物を加える
2. 加熱殺菌する
3. キノコ菌を植えて増殖させる

◆クワガタムシ飼育への菌糸ビンの応用の歴史

カワラタケというキノコが生えている朽ち木で、野生のオオクワガタが大きく育つ傾向があるということが経験的に知られていました。キノコ栽培を行う会社に所属していた井上氏は、カワラタケがどのようにしてオオクワガタの成長を助けるのかについて、彼の考えを1992年に『月刊むし』に投稿しています(参照文献1)。記事によれば、カワラタケはリグニンと呼ばれる木の成分を分解し、クワガタムシの幼虫が利用できる栄養分に変えることでクワガタムシの成長を助けるそうです。ここから、すでにキノコ栽培に使われていた菌糸ビンがクワガタムシの飼育に応用されたのは必然だったと言ってよいでしょう。井上氏が所属していた会社が1992年に菌糸ビンを発売したのが、クワガタムシ業界における菌糸ビン発売の第一号だったと言われています(*最後の1文について、調査不足かもしれませんが根拠となる一次情報をまだ私は見つけることができていません)。

◆菌糸ビンの効果的な使用方法の確立

その後、複数の企業が菌糸ビンを売り出しましたが、菌糸ビンを使用したときに幼虫が高い確率で死んでしまうという問題がありました。この問題を解決し、オオクワガタの幼虫を安定的に(つまり低い死亡率で)大きく育てる方法を公開したのが森田氏です。彼は オオヒラタケというキノコの菌糸ビンを使って調査を始め、100匹以上のオオクワガタの幼虫のデータを毎年取り、1997年にそのデータを『月刊むし』に公開しました(参照文献2)。彼は菌糸ビンを使った飼育方法を定期的にアップデートし、他の愛好家が大きなオオクワガタを育てることに貢献し続けています。

◆菌糸ビンは何をもたらしたか

菌糸ビンは、オオクワガタを安定的に大きく育てる方法として定着しています。菌糸ビンの開発は技術的なブレイクスルーと言うことができ、もっとも大きなサイズのグループのオオクワガタの成虫が菌糸ビンから継続的に生まれています。また、菌糸ビンによってオオクワガタの飼育が容易になったという側面も大きく、結果的にオオクワガタの価格を下げ、より多くの人がオオクワガタの飼育を楽しめるようになりました。適切な環境があれば、大きなオオクワガタを子供でも育てることができます。加えて、一部の種類のクワガタムシに関しては、菌糸ビンが現在唯一の飼育方法であるそうで、菌糸ビンの影響はオオクワガタ以外にも広がりつつあります。

より効果的な飼育方法を探して試行錯誤している方もいることでしょう。菌糸ビンの次は何が来るのでしょうか?

参照文献
1. 『月刊むし』1992年8月号
2. 『月刊むし』1997年6月号

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