大人の自由研究:半球型樹脂でクワガタ標本がゆがんで見える理由(初級編)
「壊れない標本がほしい」「真上からだけでなく、色々な角度から標本を眺めたい」と思ったので、半球型の樹脂埋め標本を作ってみることにしました。
コクワガタの標本を作り、
【図1:コクワガタの標本】
半球型樹脂(参照:たんぽぽの綿毛の樹脂封入)へ埋めました。すると、
【図2:半球型樹脂中のコクワガタの標本】
こんな姿になってしまいました。もとの姿と比べると、大あごが縮んで頭部から腹部が膨らんでいます。もとの姿は格好良かったのに…
残念がって終わりではコクワガタに申し訳ないので、半球型樹脂の中でのゆがみ方を知り、半球型樹脂中でまともな形に見えるようにする工夫について考えてみました。
「初級編」(この投稿)は写真を見れば理解できる内容であるとともに、標本を作る上での工夫の要点もここで分かります。
別の投稿で扱う「上級編」は物理と作図を使ってゆがみをより詳しく理解しますが、標本を実際に作る上では「初級編」を読んでいただくだけでも十分です。
初級編:目で見て理解する半球樹脂中のゆがみ
半球型という形から生まれるゆがみの特徴をはっきりさせるため、まずは高さが同じ直方体型と半球型の樹脂を作り、見え方の違いを確かめました。
【図3:直方体型・半球型樹脂中の定規】
樹脂の底に埋めた定規型マスキングテープが、半球型樹脂の中で大きくゆがんで見えます。数字の1や9が縦横に広がり、2、8はつぶれてほとんど見ることさえできません。
おおまかに言うと、中心付近は比較的ゆがみが弱く、やや外側で縦横に大きく膨張し、さらに外側に近づくと縁のほうに向かってつぶれるようです。
ここからひとまず、
ということが言えそうです。
もう1つの観点として、樹脂表面から深いところへ行くほどゆがみが大きくなるということが考えられます(光の屈折による虚像のでき方からそのように考えましたが、詳細は省略します)。
同じくマスキングテープを使い、深さの影響を見たのがこちらです。
【図4:浅い位置に埋めた定規】
相変わらずゆがんでいますが、図3よりは良いように見えます。
したがって、
ということが分かりました。この2つの条件を同時に満たすには?と考えたとき、丸くて(①)、高さのある(②)、ダイコクコガネのような形の昆虫が思い浮かびました。
【図5:ダイコクコガネ】
そこで、こちらのモデルも作って試してみました。
【図6:アーチ型のモデル】
よさそうです。
ダイコクコガネの代わりに、数少ない手持ちの標本で作ったのがこちら。
高さを出すため、カナブンをどんぐりの上に置きました。
【図7:どんぐり上のカナブン】
ゆがみはほとんど気にならないレベルです。
結論
半球型樹脂の中でゆがみに影響を受けにくい標本を作りたい場合のポイントは
の2点。
これらを同時に満たす、ゆがみの影響を受けにくい標本が、丸くて高さのある昆虫と考えられます。
または「どんぐり上のカナブン」のように、浅め真ん中に置く工夫をすることでも、ゆがみの影響を小さくできます。
上級編では、物理法則をもとにゆがみをさらに深く理解します。最後には、半球型樹脂中でのゆがみを虫の写真から予測できるような結果をお伝えします。 お楽しみに。